かつて北海道に、国鉄広尾線という、帯広駅から広尾駅を結ぶ路線がありました。それで今回の旅の途中、偶然にもその終着駅である広尾駅の近くを通ったのですが、その際、広尾駅が現在は広尾町鉄道記念館となっていることを知り、個人的にも広尾線にはちょっとした思い出があったりしたので、急遽立ち寄ることにしました。

国鉄広尾線について

　日本国有鉄道の広尾線は、帯広駅から十勝平野を南下して太平洋にほど近い広尾駅の間84.0kmを結んだ、全線非電化・単線の路線。ちょっと前にあげた日高本線汐見駅の記事にも書いたのですが、大正11年（1922年）に制定された改正鉄道敷設法によって、苫小牧から襟裳岬、そして広尾を通って帯広を結ぶ路線が定められ、建設を開始。帯広側から工事は進み、昭和4年（1929年）から昭和7年（1932年）にかけて順次延伸され、広尾駅まで開業しました。その後、広尾駅から襟裳岬を経由して日高本線様似駅までの間は未成のままとなり、昭和60年（1985年）に国鉄再建法が成立すると、第2次特定地方交通線として廃止対象路線に指定。昭和62年（1987年）2月2日をもって全線廃止となり、バスに転換されました。

　それと広尾線と言えば、「愛国駅から幸福駅へ」でしょうか。元々鉄道マニアの間では、珍しい駅名というのはネタとして知られていたのですが、国鉄末期の当時、縁起の良い名前を持つ駅の入場券やら乗車券がマスコミにもやたらと取り上げられブームになったように記憶しています。

　で、個人的にも廃止となる前年、帯広駅から広尾線に乗車したのですが、雨が降り続く十勝平野を、淡々と進んだような記憶がうっすらと残っています。あと、帯広駅でも売っていた愛国－幸福の乗車券や入場券を何枚も購入し、当時通っていた高校の部活の女子部員たちへのお土産にしたという痛い思い出もあったりするのですが。

広尾駅と広尾線鉄道記念館

　そんな広尾線の終着駅であった広尾駅ですが、昭和7年（1932年）11月5日に開業。その後広尾線と共に廃止になりましたが、鉄道が廃止されて四半世紀以上経った今でも、バスターミナルとして、そして広尾線鉄道記念館として利用されていました。

【かつてのホーム側】

　冒頭の写真のとおり、正面から見るとあたかもまだ鉄道があるようにも見えるのですが、裏手というかホーム側に回ると、線路はきれいに撤去され、更にはかさ上げされた上で舗装もなされ（その舗装も、経年によって箔が付いてきていました。）駐車場として利用されていました。

【信号テコ】

　出発信号、構内信号の腕木式信号機を操作するためと思われる信号テコもしっかりと現存していました。

【出札口】

【到着時刻表】

　出札口に残る到着時刻表には、廃止時のものと思われる到着時刻が（一部消えかかっているとは言え）まだ残っていました。

【改札口付近】

　改札口も往時の姿をとどめていました。

【切符売り場と広尾線鉄道記念館展示スペース】

　切符売り場は、現在もバスの切符売り場として使用されているようでした。そして、かつて駅事務室だったと思われるところは、広尾町鉄道記念館の資料展示スペースとして整備されていました。その展示物は、昭和の頃というか廃止当時に使われていたものが中心。オッサンなので、眺めているととても懐かしい気持ちになってきます。

【鉄道記念公園】

【腕木式信号機と転轍器標識】

　それと構内の一部は鉄道記念公園として整備され、C11形蒸気機関車の動輪や、腕木式信号機、転轍器標識なんかが置いてありました。

　というわけで、個人的には約30年ぶりに立ち寄った広尾駅。一度来ただけの筈なのに、それでもとても懐かい思いがしました。ちなみにその時、ここで襟裳岬経由様似駅行きの国鉄バスに乗り換えたものの、降り続く雨に、降りる予定の襟裳岬で降りず様似駅までまっすぐに行ってしまい、後になって「やっぱり襟裳岬に行っとけば良かった」と後悔したのですが、この前に立ち寄った襟裳岬と合わせて、その時のもやっとした想いが、今回ようやく成仏したかもしれないなぁ、と。